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【雑誌掲載】2022年9月号CO・OPステーション

若者の次の一歩をサポート②

「人はどうであれ、自分の人生は自分で進められる」

 

不登校や高校中退の生徒を対象にした個別学習塾があるのをご存じですか?兵庫県西宮市で。、一般社団法人ニュールックが運営する「TOB(とぶ)塾」です。代表理事で塾長の山口真史さん(41歳)が、どうしても目を向けてしまうのは、従来の枠組からこぼれていく生徒たち。そのベースは、山口さん自身の家庭環境や、これまでの人生の歩み方にあるようです。「学校でうまくやっていけない生徒の再出発を支えていければ」と話しています。

 

山口さんは、2歳の時に大韓航空機撃墜事件で父親を亡くし、母子家庭で育ちました。

「自分の環境から培われたものかもしれませんが、『人は人、私は私』という感覚が強く、『人はどうであれ、自分の人生は自分で進められる』という考えで歩んできました。だから、中退が『不利』とも、『終わり』とも思わない。自分がこれで大丈夫と思えるかどうかが大事なんです」

中学時代、教師にすすめられ国立の高等専門学校へ。1年の1学期で辞めたいと思うようになり、高卒認定がもらえる4年で中退。大学は、一浪して社会学部へ進学します。

「大学時代は、兵庫県のNPOで高校生を集め、アメリカやフィリピン、イランで約2週間ワークキャンプをするというプログラムを、責任者として企画、手配、募集までやっていました。海外へ行くと、高校生の表情から、あいさつの仕方まで毎日変わっていく。人が変化していくのが興味深かったです」

 大学卒業後は人に関わる仕事をしようと転職支援の会社へ就職しました。しかし会社員は、効率や利益などの数字が重視されがちです。大学時代のワークキャンプの経験を思い出し、長い間、人の成長に関われる仕事をしようと、教員試験を受けて学校の教師に転職しました。

 「でも私は枠からはみ出す子どもにどうしても目が向いて、学校の方針とうまくかみ合わない。それで、学校を中退するなどで、進路が定まらない子たちのフォローができればと塾を立ち上げました」

 「TOB塾」オープンまでの準備も、すべて一人で行いました。周りからは「安定した教職を辞めてすごいですね」という声も。しかし、「やればなんとかなるという感覚はずっと変わっていません」と山口さん。

 

「自分の人生を無茶苦茶にしようと思う子はいない」

 

 「塾の運営で大切にしているのは『熱を入れ過ぎずに、熱を入れること』です。保護者にもよく言うのが、『期待せずに信じる』くらいのスタンスで接してもらうこと。熱を入れ過ぎると独善的になったり、短期間で燃え尽きたりしますからね」

 山口さんは、これまでの塾の活動のほか、夜間に繁華街などにたむろする子どもたちに声をかけて回る「夜回り」や、ホストクラブなど夜の街で働く高校中退者に「出張授業」なども行ってきました。勉強が苦手な人に向けて、文字から情報を得るための熟語を学ぶライブ授業「ことばの授業」も。根底にあるのは、「何らかの理由で学校を辞めたりしている人たちが、自分の力で人生を歩み始めるその一歩を支えていきたい」という思いです。現在は、高卒資格を持たないひとり親家庭の親の学び直しを、年に3人無料でサポートする「PACサポート」を継続中です。

 「今後の課題としては、PACサポートなども含め、ネットを使えば多くの人が見られる可能性は広がりますので、YouTubeなどをうまく活用していきたい。また塾生どうしで、横のつながりもオンラインでつくれたらいいなと思っています」

 わが子が不登校などで悩む親御さんに向けて、メッセージをいただきました。

 「自分の人生を無茶苦茶にしようと思う子はいません。たとえば家でずっとゲームをやっていても、それは学校に行けていない自分と100%向き合っていると、救いようがなくなるから。自分が折れないための逃げ場で、考えたうえでの行動だと思います」

 よくありがちな、子どもの顔色を見ては「進路は、将来はどうするの?」といった小言はやめたほうがいいそうです。

 「大切なのは、家が安心の場であること。真剣な話は、『見放してないよ』のメッセージとして、何か月に1回とか『これについてしゃべろうね』と決めておくのがいいと思います」


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